小瀧くんが新入社員だったら、こんな寄り道デートがしたい
今年度から新入社員として入ってきた小瀧望くんは、色々な意味でスーパールーキーだと思う。なんでもちゃっかりこなすし、人一倍空気が読めて上司からも評判がいい。
先月からそんな彼の教育係となった私も、今まで後輩の面倒を見るのは得意でなかったはずなのに、小瀧くんとは上手くやってけている。気がする。それも全部彼の性格がそうさせてくれている事は自覚しているし、もう少し先輩として頑張らなくては、と思う。
今日は彼を連れて、何回目かの外回り。まだ少し緊張はしているものの、こんなに早くから取引先のお偉いさん相手に、堂々とできる小瀧くんは本当に頼もしい。
「あっ、ちょっとコーヒー買って来ていいっスか?センパイはここで待っててください!」と言うのでお店の外で待っていると、コーヒーショップの隣にある靴屋のショーウィンドウが目に入る。
所謂ハイブランドと括られるそのお店の靴は、私の憧れでもあり、毎日の仕事をがんばる目的の1つになっている。
綺麗に陳列された靴の中でも、端の方に少し控えめに置かれているベビーピンクのパンプスが気になって、窓ガラスに張り付いて見ていると「ぷはっ、センパイ、子どもみたいっスね」と後ろから小瀧くんの声。「砂糖とミルク、多めにしときました!」ハイ、と渡されたコーヒーは、確か前に"ド"がつくほどの甘党だと話した事を覚えていてくれたのか、丁度いい甘さだった。
「気になるんスか?あの靴。」
「うん、右端にあったやつ。ピンクの靴って持ってなくてさ」
「確かに履いてるトコ見ないっスね、センパイのピンク、見たいかも!」
へ〜小瀧くんて、人の足元とかもチェックしてるんだ。私が新人だった頃は、靴なんて外回りがしやすいかどうかで選んでいたのに。意外とそういうとこ、しっかりしてるな。
「あ、そういえば、お金、コーヒーの!」
「たまには奢らせてくださいよ!…あっ、その代わりちょっとセンパイのください!」
首を傾げて手を出すから渡すと、
「あっま!スンマセン、いれすぎました?」
「や、丁度いいよ(笑)」
「へ〜〜覚えとこ(笑)俺もどっちかっつーと甘党やけど、センパイのはレベチっすね(笑)」
「ごめんね〜子供で!」
「ふふ、謝ることないっすよ、可愛いんで」
なにそれ〜!と誤魔化したけど、彼のこういうところは本当に危ない。何も予期していない会話で、突然爆弾を落とすのだから。
「んあ〜〜外回りってええな〜〜!!天気良いと、オフィスに篭ってるのもったなすぎやもん!!」
「そうだね〜ちゃっちゃと回って、お昼は公園もアリかもね」
「え!めっちゃいいっスね!」
センパイと公園デートや〜♡ってスキップしだすから、コラコラと大型犬の腕を掴んで諭す。
無事に取引先との契約が1つとれそうで、いつものコンビニではなく、奮発してお洒落なサンドイッチをテイクアウトした。
丁度桜が満開となった公園には、お昼休憩のサラリーマンやOLでいっぱいで、中にはレジャーシートをひいてお花見をしているグループもあった。
「俺もお花見したい!誘ったら来てくれます?センパイ。」
「お〜〜いいね、企画してよ!神ちゃんも言ってた、そろそろ花見したいって!」
「え〜2人がええねんけど〜〜」って言うから、もうしてるじゃん、と言うと「そういうんとは、ちゃうやん」って耳を垂らしてわかりやすくショゲる。
「本当に会社戻りたくなくなるね、こんな天気だと」
「あっ!ええこと思いついた!、」
「なに?」
「さっきセンパイが見てた靴屋行きましょ、まだ時間あるし!俺も女性モノの靴、見てみたい!」
仮にも仕事中なんだけど!と思ったけど、予定してたよりも早く午前中の用件が片付いたし、帰り道だから少しはいいよね、と自分に言い聞かせる。靴、見たいし。
あ〜〜教育係として失格だ。内緒ね、と言うと「了解っす!」と敬礼して、「ナイショな、ナイショ、…ナイショか〜(笑)」って何度も繰り返して笑うから、も〜本気でだからね!駄目だよ、中間先輩とかに言ったら!と、釘をさす。
お店にはいると、チラホラと人はいるものの、落ち着いていて高級感が漂っている。
「好きなんスか?ここの靴」
「まだ2足しか持ってないけど、好きなんだ、可愛いし、履きやすいし」
今度お迎えする"3足目候補"を探すワクワク感といったら、ない。さらなる仕事の原動力にする為にも、今日少しでも目星がつくといいな、と思う。
「あ、これなんかどっスか?ピンクの!」
「可愛いかも!」
履いてみてください!と、小瀧くんが差し出してくれたソレは、ピンクベージュのワンカラーで、シンプルだけど可愛い。
「えっ、パッカパカやん!え、待って、センパイ足ちっさ!ホンマに子どもやな(笑)」
「うるさいよ(笑)」
パンプスだと22.5センチでも脱げてしまう私の足は、なかなか頑固で靴を探すには一苦労なのだ。
残念だな〜〜と思っていると、「なあ、これも履いてみて!」と小瀧くんが、これまたピンク色の高いヒールの靴を指差す。普段は歩きやすい低めの物を選ぶから、これは高すぎるよ〜と言うと、「ええからええから!お願い!」って手を合わせてくる。
これもサイズは大きいけど、小さなリボンがアクセントになっていて、履いてみると可愛い。つい、鏡の前まで移動する。
「ふは、こんなにヒールあっても、小さいんやね、センパイ(笑)」って隣に来て、自分の手を私の頭に乗せてくるから、少し肩を小突いてやる。
良かったらサイズお持ちしますか、と離れたところで見ていた店員さんに言われ、はじめに小瀧くんが勧めてくれたピンクベージュの靴を頼む。
「え〜〜!めっちゃ似合てるやん。」
「可愛いね〜〜コレ!サイズもぴったりだし!」
「こちら先月にでたばかりの新作でして、とっても人気なんですよ。」
「人気なんやって!これやったら俺との身長差縮まらんけど、ええやん。オトナの女の人って感じやで。」
「身長の話はいいの!(笑)」
「仲良しなんですね(笑)身長高いですもんね、彼氏さん!」
いやいやいやいや違います、あ〜ショッピングあるあるキタ〜〜と思っていたら、横で小瀧くんが「そうなんスよ〜〜ま、小さくてもソコが可愛いからいいんスけどね、」とか話してるから、否定しようとすると、「なっ!」って同意を求めてきたので、すみません、違うんです、と店員さんに少し頭を下げる。「ちぇ〜〜つまらへんの〜」と言って拗ねる小瀧くんを横目に、ありがとうございました、給料日になったらまた来ます、と言ってお店を出る。
「てかごめんね、付き合わせちゃって、つまんなかったよね、」
「大丈夫っスよ、逆にラッキーす。センパイの彼氏になれたんで(笑)」
「も〜〜(笑)でも、ありがとね、ほんと」
「次行く時は報告出来るようにせんとな〜〜彼氏に昇格しました!って!」
「まったく、小瀧くんすぐそういうこと言うんだから(笑)」
そう言うと、隣で笑っていた小瀧くんが急に立ち止まるから、私も立ち止まって振り返ると、
「…なあ、笑ってられンの、今のうちスよ。俺、センパイのこと、本気なんで。」
ーーー真剣な顔でそれだけ言って、先にスタスタとビルへ入っていく小瀧くんは、スーパールーキーで、やっぱりちょっと危ない。
寄り道したすぎるネ!靴屋に行く理由つけて、外回り(訳:デート)の時間のばされたすぎるネ!ずっとヘラヘラしてたのに、急に真剣な声でストレートに言われたすぎるネ!!!
敬語とタメ口のバランスが絶妙すぎる新入社員の小瀧くん、推すしかない。
靴屋に行く提案をした小瀧くんは、デートを伸ばす目的以外にも、先輩の好みを調査する目的も兼ねていたので、この後しばらくして彼氏になった小瀧くんが、この靴をプレゼントしてくれたらいいですね。(淳太くんに次ぐ策士。)
因みに私は本当に足が22センチで、靴選びには毎回困るし時間がかかります。泣